①作文教育のねらい
くわしく書くことで,事象(人間の動きや心理,自然の変化・美,世の中のありさま)を詳しく捉えることができる。くわしく書くことにより,想起力・表象力・構成力・思考力が練られる。子どもの物の見方,感じ方,考え方を伸ばし,子どもの人生観・世界観の基礎となるものであり,きわめて大事な教育である。
②作文教育が目指す価値観
表現と認識の統一
子どもたちが,自分をとりまく外界の事物(自然・社会・人間)に働きかけられたり,自分から働きかけたりして捉えたものが,子どもの文章作品であるとする。作文教育を通して,有効に子どもたちの生活と学習に働きかけをするならば,子どもたちは文章をつづること,及びその文章について他の子どもたちと共有することを通して,自然・社会に関する具体的認識,人間に関する具体的理解を得るものと考える。それによって,自然の美しさ,微妙さ,人間との密接な関わり,こわさを具体的事物から認識することができるだろう。人間の複雑さ,やさしさ,すばらしさ,みにくさなども,具体的に理解していくことができると考える。以上のことが基本的な作文教育の考え方としての価値観である。
③指導段階を科学的に
ピアジェの理論をもとに,子どもの認識の発達のすじ道に着目し,具象的なものから抽象的なものへ,個別的・特殊的なものから一般的,普遍的なものへと進む,文章表現指導の指導段階をとって指導していこうと考える。
A.第一指導段階
自然や社会や人間にまつわる一回限りの過去の経験を再現するように書く文章表現の力と方法とを,すべての子どものものにしていく指導の段階,つまりある日,ある時,ある所で見聞きし経験したことの中で,捉えた事実,それについて考えたこと,感じたことを,)「した。しました。」,「したのだった。したのでした。」と,過去形表現を主にしてつづっていく文章の書き方に十分慣れさせていく指導の段階。
B.第二指導段階
長い間,やや長い間にわたり,いく度もくり返して見聞きし経験していること,考えたり,感じたりしている具体的な事実の中で,頭の中で,よくまとめて説明風に書いていくような書き方を,すべてにの子どもに見につけさせていく指導の段階。つまり,「です。である。」,「ます。であります。」などの説明風の表現をつづっていく文章の書き方。
C.第三指導段階
上記AとBの文章が発展し,次のようになる段階。①題材とテーマが複雑深刻となったために,第一指導段階で習得したような文章表現の方法では満足できず,そのような書き方に新しい工夫を加え,その構成上,理由や根拠,由来などを明らかにする必要から,「大きな挿入部」をはめ込み,その部分をしっかりとした説明的文章として叙述していく文章。②同じく題材とテーマが複雑深刻になったので,第二指導段階で習得したところの具体的総合的説明形では間に合わず,その間に「大きな挿入部」をはめ込み,証拠や実例を出して,叙述を具体的なものにしていく工夫をした文章。③どうしても書きつづりたい一回限りの経験を再現する文章の発展。その記述,叙述をあざやかなものとして,それに現実的臨場感をもたせるような表現技術上の工夫の必要を感じたり,また「しました。した。た。」と書き続ける記述に,ある変化を与えて類型性から脱皮しようとした文章。つまり,継続態や現在,未来形の表現を,部分の文・文章にはめ込む場合の文章表現。